【メディア紹介】日本国際観光学会学会誌・旅行新聞に掲載されました。

JTBツーリズムビジネスカレッジ講師が

日本国際観光学会学会誌に「インクルーシブツーリズムの概念を含む、ユニバーサルツーリズムの更なる概念提示」を発表いたしました。

また、旬刊旅行新聞にも提言をいたしました。

(以下、記事稿)

ユニバーサルツーリズムとは、「すべての人が楽しめるよう創られた旅行であり、高齢や障害などの有無にかかわらず、誰もが気兼ねなく参加できる旅行(観光庁2014)」と定義されています。その進捗状況は各社さまざまですが、いよいよ実質的な概念を全社員が共有する時期が迫ってきました。それは2024年4月1日、改正障害者差別解消法が施行されることにあります。改正の主な内容は、民間事業者が努力義務とされていた合理的配慮が義務化されることです。

 

本稿は、ユニバーサルツーリズムを全社員が実践的概念と得心することを目的として、業務における共通認識に置き換えて提言します。そしてユニバーサルツーリズムの更なる概念を実践することで、旅から社会を変革することを期待します。

① 「合理的配慮とは代案提示」

義務化される合理的配慮とは何でしょうか。合理的配慮とは、障害のあるお客様からのご要望と捉えられます。そのご要望は叶えられるものもあれば、そうでないものもあると考えられます。

 

ここで言明できることは、「個々の個性(お客様の要望)に対応することは、すべてが上手くできなくて当たり前」ということです。

 

合理的配慮の義務化とは、「できるだけやってみる」ということです。よって必要なことは、あとちょっとの創意工夫です。言い換えれば、「代案提示」です。

 

完璧を求め、構える必要はありません。大切なことは、Aが叶えられなくてもBを、つまり合理的配慮を「最適な代案提示」として提供していくことにあります。

② 「対話とはヒアリング」

「建設的対話による相互理解を通じた個々の意向尊重」が合理的配慮です。そして障害のあるお客様に、障害の状況などを確認することは、不当な差別的取扱いには該当しません。精度の高い創意工夫を提供するための前提条件はヒアリングにあります。

③ 「ユニバーサルツーリズムとは、トラベルウィズの提案」

22年8月スイスジュネーブ国連欧州本部は、日本政府に対して障害者権利条約に基づき「インクルーシブ教育の権利を保障するため障害児を分離した特別支援教育の中止を求める勧告」を発表しました。教育または旅においても、障害を理由に要望とは異なる「別の場を選ばされる、選ばざるを得ない」状態にあります。つまりこの勧告は、現況を解決すべく個々の障害に対して社会全体の中で配慮することを求めたのです。社会全体がインクルーシブの実践に移行しています。教育または旅においても社会的意識変革が必要なのです。

 

そこで本稿ではユニバーサルツーリズムの定義を、「すべての人が」ではなく、「すべての人と楽しめるよう創られた旅行」と読み解き、認識することを提言します。障害のある人だけが旅にでるのではなく、障害のある人もすべての人と共に旅にでる定義への移行です。高齢や障害のある人を限定対象として旅行促進をはかるユニバーサルツーリズムの概念は必要です。そのうえで「すべての人が」ではなく「すべての人と」読み替え改めて意識するのです。この「が」から「と」への「一文字の変革」で、ユニバーサルツーリズムは更なる概念となります。

 

障害者雇用促進法により、企業は障害のある人を雇用しなければなりません。オーガナイザーに「障害を事由に今イベントに参加できないお客様はいらっしゃいませんか?」と尋ねてみましょう。手配上の疑問点や必要な経費はお客様と相談します。仮に希望が叶わなくても、お伺いし提案をすることが第一歩です。障害のあるお客様だけの個人、団体旅行を促進することのみがユニバーサルツーリズムではありません。そして現状のツアーと障害のあるお客様のツアーは別物ではありません。現存するお客様とそのお客様との同行を願うお客様の存在を顕在化しようとする意識が大切です。

④ 「すべてのお客様のより良いご旅行のために」

「事前準備の精度が高まれば、合理的配慮の精度も高まる。そして、個々に対する合理的配慮が徹底すれば合理的配慮の求めは減少する。逆に、事前準備の精度が低ければそれだけ合理的配慮の内容が多岐にわたる。そして提供された合理的配慮の実例は事前準備として蓄積され合理的配慮の精度はさらに高められる」、つまり先ずは事前準備である基礎力が必要です。高齢や障害のあるお客様へのコミュニケーションやサポートの仕方に関する基礎力は、「旅のユニバーサルデザインアドバイザー」などの資格を基にした学習が有益であると考えられます。基礎力を培うことで、個々の申し出に応じた合理的配慮の提供の精度は高まり、申し出は減少し、更なる基礎力として蓄えられていきます。

 

上記4点のような実質的な概念を全社員が共有し実践していくこと。その継続が旅により世の中を変革させていくことにつながります。

◇プロフィール

竹内 敏彦(たけうち・としひこ)氏

東洋大学大学院国際地域学研究科国際観光学修士課程修了。(株)日本交通公社(現JTB)に入社し、企画造成・営業に携わる。日本国際観光学会・余暇ツーリズム学会正会員、旅行産業経営塾4期生、総合旅行業務取扱管理者、クルーズコンサルタント、サービス介助士、旅のユニバーサルデザインアドバイザー。著書に、「観光と福祉(共著)」「宿泊産業論(共著)」資格公式テキスト「旅のユニバーサルデザインアドバイザー(編著)」単著論文「ユニバーサルツーリズム促進に向けた考察―旅行業者の意識改革とその実践―」(日本国際観光学会論文集第26 号)「ユニバーサルデザイン、合理的配慮に関する一考察―障害のある人の結婚式を事例として―」(Kankokeizai.com2021年3月)「障害のある人の就労に関する一考察―バリアバリューによるホスピタリティー」(東洋大学観光学研究第21号)「ユニバーサルツーリズム促進に向けた考察―学校義務教育における合理的配慮からの検討―」(東洋大学観光学研究第22号)「インクルーシブツーリズムの概念を含む、ユニバーサルツーリズムの更なる概念提示」(日本国際観光学会論文集第30号)等。